編集長玉井です。
10月19日に「日本の木のいえ情報ナビ」で地域材活用特集として、
「進化する家づくりネットワーク『吉野スタイル』」を公開しました。
気付かれた方もいらっしゃると思いますが、2010年2月に公開した
「木の家ものがたり Vol.5『チームワークで、建てた家』」と同じ、奈良・吉野の阪口製材所さんと建築家の奥野さんが取材対象です。
同じ取材先を再訪することで、この3年間の「進化」を捉え、地域材の活用を図っている他の方々の参考になればという思いで特集させていただきました。
もちろん、吉野材を活用しようと活動されているのは阪口さん達だけではありませんし、他の地域でも様々な取り組みがなされていると思います。情報ナビの取材にかけるマンパワーには限界があり、またひとつひとつの取材を腰を据えて行うために、あまり多くの話題を取り上げることができず、申し訳なく思っています。
さて、今回の取材で感じたことで、記事にしなかった部分について触れたいと思います。
■最終顧客との接点である事業者との関係構築を優先
最初から山や産地を守ろうと思って家を建てる人は少なく、建てようと思った人が直接製材所を訪ねるのもレアケースでしょう。「吉野スタイル」のネットワークでは、まず製材所が工務店・建築士と信頼関係を築き、情報を共有してきた結果として、その先の最終顧客にも「想い」が伝わることにつながっているのではないでしょうか。
■山の木が家になることをきちんと伝える
一般の方は、山に育つ木が家になることがイメージできていないことが多いのではないでしょうか。今回、見学ツアーに同行して思ったのは、バンドソーによる丸太の挽き割りを見せると、丸い木が四角い柱になることが一瞬にして伝わるということです。簡単なことですが、製材所見学の大切なポイントで、ある意味、伐採よりもインパクトがあるかも知れません。
■囲い込むのではなく増殖するネットワーク
産地と住宅設計・施工者がネットワークを組むことは珍しいことではありませんが、ネットワークが形づくられた後、閉鎖的になり新規参加に有形無形の障壁が生じるケースもあるそうです。また、「吉野スタイル」のネットワークは過度なルールを排除し、緩やかな結びつきを保っているので、作り手の参加者が増え続けています。また中心である製材所のぶれない「想い」も、ネットワークの拡大の原動力になっていることも確かです。
■今後求められるブランド価値の維持
「吉野スタイル」では、ネットワークの拡大に伴い今後も形態的なバリエーションが増えることが予想されます。今後はブランド価値を保ち続ける新たな工夫が必要になってくるでしょう。
立場上どうしてもインターネット上の情報が気になるのですが、家づくりのネットワークに参加する建築士さんや工務店さんのサイトやブログ、SNSで発信される散発的な情報が、インターネット上のブランドの情報を混乱させる可能性があるように思うのです。特に建物の形態的な縛りが無いことが、見た目での識別がしにくいという弱みにならないかどうか心配です。
それぞれの立場での情報発信を制限することなく、ひとつのブランドとして認識させるためには、月並みですが、統一マークのようなシンボルの整備もひとつの手かと思います。また、インターネット上の情報を整理する意味で、「吉野スタイル」という検索ワードと、
検索エンジンに対応する※「ポータル的」なサイトが必要だと思います。インターネット上でもきちんと「想い」を形にしておく事が大事かと思います。
また、これは記事内でも触れましたが、これから増えてくる「吉野スタイル」のOB施主さんとの関係構築も大切な要素だと思います。OB施主さんが「家のふるさとに帰る」機会となるようなイベントがあれば、ブランド価値の「かたりべ」として、活躍して下さるのではないでしょうか。そのようなOB施主さんの存在こそ、ブランド価値そのものなのかも知れません。
■言い続けることの大切さ
「吉野スタイル」の例を見ても、ネットワークづくりには5年・10年スパンで時間がかかります。長い間求心力を保ってプロジェクトを推進するためには、コアとなるメンバーが「想い」を共有し続ける必要があり、その維持には相当な精神力が要求されることと思います。
「吉野スタイル」の快進撃のきっかけは、直接的にはモデルハウスの建設であるように見えますが、「箱」を作れば必ず上手く行くという訳ではく、長年の努力があったからこそ、モデルハウスを短期間に戦力化できたのではないかと思います。
「ぶれないで根気強く言い続けること」ネットワーク構築の原動力は実はこんな当たり前でシンプルな所にあるように取材を通じて感じました。
折しも、国交省の「地域型住宅ブランド化事業」により、多くの地域材活用のグループが誕生しています。これをきっかけに全国の産地と地域の住宅設計・施工者が結びつきを強めていくこと思いますが、ネットワークが本当の意味で成果を上げていくまで粘り強く取り組んで欲しいと願っています。
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今回の取材は、3か所の建物をできるだけ丁寧に撮影したかったということもあり、長期の取材になりました。3泊4日の間、製材所内のコンセプトハウス「吉野サロン」をお貸しいただいたお陰で腰を据えて取材に取り組めました、最後になってしまいましたが、ご協力いただいた阪口製材所様、また奥野様に深く御礼申し上げます。
特集:進化する家づくりネットワーク「吉野スタイル」はこちらからご覧下さい。
http://www.nihon-kinoie.jp/knows/special06/
※検索エンジンに対応する・・・
テクニカルなSEOの事を想い浮かべるかもしれませんが、それだけではなく、検索エンジンからどう見られているかを常に監視していく必要があります。少なくとも重要なキーワードについては、検索結果がどこに、どのように表示されるか、いつも気を配っておかないと、サイトへのアクセスをロスしてしまいます。もちろん、来訪者のニーズに応えるコンテンツと、こまめな更新が必要であることは言うまでもありません。(自省も含め)