編集長、玉井です。
このきれいなモノ、何だと思いますか?
これは今回の工事で使う「木毛セメント板」です。材料は国産ヒノキの間伐材とセメント。だいたい4割がヒノキでできています。メーカーによると、もともとはスプルースなどの輸入材を使用していたのを、国産間伐材の有効活用を目的として、小径木に対応した新しい機械を導入するなどして、原料の切り替えを進めてきたとのことです。現在の原料の国産材化率は85%、将来は100%を目指しているそうです。
木毛の製造機。木を繊維方向に細く削ったものが木毛。
マスタープランさん×岡庭建設さんによる国産材マンションリノベーションの現場に、この木毛セメント板を使った乾式二重床の材料が搬入されました。現場レポは別の記事でお伝えするとして、なぜこの乾式二重床なのかについて、現場で聞いた話をもとにまとめてみます。
■マンションリフォームの重要なポイント「遮音性能」
自然素材への関心の高まりで、マンションリフォームの際に無垢材を選択する住まい手が増えてきています。ところが、リフォームが終わっって暮らし始めた途端に、階下のお宅から音の問題でクレームを受けることがあるそうです。
床の遮音性能は、マンションの管理規約で確保すべき性能が定められているケースがあり、万一クレームになって、実測の結果性能が確保されていないことが分かれば、床工事のやり直しなど被害は甚大になります。
管理規約で定められるのは床の仕上げに左右されやすい「軽量衝撃音(LL)」。「重量衝撃音(LH)」の性能はコンクリートスラブ厚などによって決まってしまう。一般的にLL-45を規定するマンションが多いがLL-40を要求される所もある。
マンションの既存床がふわふわしている物が多いのは、遮音性を持つゴムなどの材料に、薄い合板を張ってあるから。逆に言えば柔らかさによって遮音性能を確保していると言えるでしょう。ですから、既存床の上に比較的固い無垢材を直に張ったりすれば、音は伝わりやすくなり、床自体の遮音性能は低下します。
既存床を撤去し、遮音効果をうたう材料を敷いて、その上に床を施工する工法もあります。そうすれば、遮音性能は確保されるのでしょうか。
■遮音へのこだわり
マスタープランの小谷さんは、マンションリノベーション専門の建築士として、早くからこの問題と向き合ってきました。以前に、オール国産杉の遮音床の研究に取り組み、住木センターから補助金を受けて公的施設での実測実験を繰り返したことがあったそうです。
この時に、現実の施工状態で遮音性能を確保することの難しさを感じたと言います。それとともに、比較のために持ち込んだ既存製品も実測するうちに、それらのカタログに記載されている数値性能への疑問も大きくなってきたそうです。
本当に無垢材の床の遮音性能を担保できる材料・工法はないものか、小谷さんの探求は続きました。
実際の施工状態で騒音を発生させ、遮音性能を測定。写真は重量床衝撃音を発生する装置。
■竹村工業さんとの出会い
複数のスラブ厚に対応した竹村工業さんの実験棟
小谷さんと長野の竹村工業さんの出会いはちょうどその頃。実際の材料と施工状態で遮音性能を計測できる、二階建の実験棟を社内に持つなど、他メーカーと一線を画すこだわりと真摯な姿勢は、両者を強く結びつけました。
小谷さんは長野を何度も訪ね、実際にリフォームに使う30mm厚の無垢の杉の床材と、二重床の組み合わせで、遮音効果を確かめ、これなら行けると確信を持ったそうです。
竹村工業の実験棟で測定機器を見る小谷さん
■性能を確保するのは正しい施工
遮音性能が確かめられている床でも、間違った施工をすれば性能は確保できません。材料が運び込まれた現場では、竹村工業さんの担当者によって施工方法の説明が行われていました。壁際の処理、支持足のピッチ、ゴム足の選択など、いくつかのポイントを押さえれば、大工さんにとってはさほど難しくない作業のようです。
根太のように細長い「受け材」をゴム足で支え、床パネルを浮かせます。写真はまだ仮置きです
「受け材」の上に453mm×1820mm(厚さ23mm)の床パネルがビス止めされます。
■床下地に「国産ヒノキ」の安心感
二重床にはパーティクルボード製のものがありますが、濡れると膨らむため、水まわりでの使用に不安が残ります。木毛セメント板は水に強く、さらにアルカリ性のためカビが発生しにくいという特徴を持っています。さらにヒノキの防虫性も期待できます。
何よりも、現場に運ばれた材料から、ほのかにヒノキの香がしたのにはびっくりしました。自然素材にこだわるマンションリノベーションにはぴったりの床下地なのではないでしょうか。
取材協力:
マスタープラン一級建築士事務所
岡庭建設株式会社
竹村工業株式会社
お施主様 I様
前の記事
マンションを木の家に-三鷹I邸プロジェクト-解体工事(映像追加)